PEOPLE

美しい暮らしの手仕事 作り手の想いを伝える古民家ギャラリー

日本で作られた志のある道具たち

 

それぞれ考えられた美しい道具たちは

暮らすという私たちの日常を楽しくさせ

少し豊かな気持ちにしてくれる

 

春日山の南側、高畑にある古民家ギャラリー「空櫁」。

 

時間の流れを忘れてしまいそうなほど居心地がよく、

全ての作品から呼吸が感じられる空間。

 

今回は、店主の五井さんにお店を開いたきっかけや

思いについてお話を伺ってきました。

 

 

五井あすかさん。奈良県出身。

大学進学を機に、東京へ。

グラフィックデザイナーとして働いた後、奈良に戻り、2012年3月に同店をOPEN。

「空櫁」という店名は万葉集で詠まれている言葉。

 

 

(合田)

わたしにとって空櫁さんは、

そのものが作られた背景に触れたい気持ちが高まる場所、だと思っているのですが、

元々五井さんは手仕事に関心を持たれていて、お店をOPENされたのですか?

 

(五井さん)

高校生まで奈良県で過ごし、関東の大学に進学。

卒業後は、東京の広告代理店でグラフィックデザイナーとして働いていました。

 

その頃は手仕事のものなんて一つも持っていなくて、

大雑把だし、買えないし、自分は安いもので十分。

コスパ重視だと思っていたんです。

 

 

(五井さん)

その後転職して、大手ショッピングモール化粧品売り場の

POP制作やノベルティ提案のお仕事に就きました。

 

ノベルティってお客さんは無料でもらえるものじゃないですか?

だからコストを下げる必要があって、

海外で大量に作られたもの等になるわけです。

 

それを提案していて、ふと

「これは自分が欲しいもの?」

「みんな捨てているんじゃないの?」

「ゴミになっているんじゃないかな?」という感覚を抱きました。

 

 

暮らしに対する意識の変化

 

(五井さん)

そんな時“職人展”という展示イベントに出会い、

どんな歴史があって、どんな思いでつくられているのか直接お話を聞いて、

ちゃんとしたものを買うという経験を初めてしたんです。

 

その買ったものというのが、箒なんですけど、

それまではホームセンターで買ったものを使っていました。

 

いざ使ってみると、これまで3回は掃いていた場所が1回掃くだけですむ。

“コスパ”の意味を改めて考えさせられましたね。

 

毎日使うことはその歴史を引き継ぎ、作り手の思いに賛同するということ。

 

それまでものは見た目と使い勝手だと思っていたけれど、

使うたび、こんなに幸せな気持ちにしてくれるものがあるのかと。

 

 

(五井さん)

手仕事がたくさんある国に住んでいるのに、ということに気付いてからは

伝統工芸品や作家さんの作品を少しずつ買うようになっていきました。

 

作り手とお話をして選ぶので、そのものを使う時に必ず作ってくれた人の顔が浮かんでくるんです。

自分の仕事と全然違うなあと。

 

職人さんは、自分が作ったものに責任を持っている。

小さくていいから、本当のことをする。

 

こういう生き方があるんだと心に響きました。

 

 

(合田)

ひとつの展示イベントでの出会いや経験が、

五井さんの考え、そして行動を変えたんですね。

 

その後、退職されて奈良でお店を開こうと思われたんですよね?

 

(五井さん)

奈良を離れてから奈良の良さを知ったので、

お店を開くなら奈良に戻ろうと考えていました。

 

東京の感覚で2、3ヵ月もすれば物件が見つかると思っていたんですが、

不動産屋さんに「一ヵ月間隔をあけてもそんなに物件は増えないよ」と言われ、

友人の知り合いに協力してもらうことになったんです。

 

理想の物件を探すため、奈良市の住宅地図を買って、

名前が入っていないお家をマーカーでチェックする日々。

そうして空き家を探し、持ち主さんを探して、交渉してもらったことも。

 

そして、こちらの昭和初期の古民家に出会うことができました。

 

 

(合田)

空櫁さんの展示は、どのようなものを選ばれているんですか?

 

(五井さん)

“志のある日本の手仕事”であるかどうか。

 

たくさんの方とお取引するのではなく、

密な関係を築きたいと思っているので、必ず一度は工房に出向きます。

 

 

志や背景にある物語も伝えたい

 

(五井さん)

こちらは森口信一さんの我谷盆です。

 

我谷盆は、石川県の山中温泉よりの谷あいにある我谷村で

江戸時代から農閑期に作られていたお盆。

でも我谷村はダム建設のため水没し、今は存在しない村となりました。

 

我谷盆の存在を知り、その魅力に惹き込まれていった森口信一さん。

何度も現地に通い、独学で作り方を習得されたそうです。

 

乾く前、生の栗木の丸太を割るところから始める我谷盆づくり。

栗の木そのもの、煙で燻しているもの、木酢酸鉄で黒くなったもの、

本当に色々な表情を見せてくれます。

 

使いはじめは未完成。

使えば使うほど、完成品に近づいていく。

 

そんなもので日々の暮らしが豊かになればいいなと思います。

 

 

 

 

お店に来てくれるお客さんは丁寧で、

暮らしを大事されているお客さんが多いんです、とお話してくれた五井さん。

 

それはきっと「空櫁」が伝えたい想いに賛同しているから。

 

日本の道具、手仕事を日々の暮らしに取り入れるのは

ハードルが高いのでは、と感じている方も、

ここに、これからの暮らしが変わるような出会いが待っているかもしれません。

 

 

 

text by saki goda.