PEOPLE

本物を追求し続ける ヨーロッパの植物園のようなお菓子屋

心地良い風が通り抜けるコンサバトリーに大きなシダ植物が絡んだ螺旋階段。

一瞬にして絵本の中に迷い込んだような気分になれる場所。

 

 

 

丁寧に作られたお菓子だけでなく、置かれている一つひとつのインテリアからも

それぞれのストーリーが伝わってくる“Patisserie Client”

そこでマダムを務める田中千佳代さんにお話を伺ってきました。

 

 

五條市出身。

インテリアの仕事をしていたが、ある時自分が一生かけて本当にやりたいことは何かを見つめ直し、お菓子の世界へ。

フランスでレッスンを受けた後、桜井市で焼き菓子工房をOPEN。

 

Patisserie Clientのシェフとの結婚を機にパティシエ業からClientのマダム業に専念していたが、

シェフが亡くなった現在、マダム業とパティシエを両立している。

 

 

最後に残ったもの“お菓子作り”

 

(合田)

扉を開けた瞬間のいい香りはもちろん、温かみのある空間に何だかほっとします。

日常の中にある非日常と言いますか…。

お菓子、植物、インテリア。全てが心地よく存在しているんだなと実感しますね。

田中さんはなぜお菓子作りをお仕事にしようと思われたのでしょうか?

 

(田中さん)

元々インテリアの学校を出て、

家具のコーディネート等スタイリングのお仕事をしていました。

でもある時自分が本当にやりたいことは何かを見つめ直そうと退職。

一年かけて自分がやってみたいと思っていたことにどんどん挑戦してみたんです。

それこそガラス等作家さん業にも挑戦してみましたよ。

 

そうしていくうちに色々なものを手放し、

唯一残ったのがずっと好きだったお菓子作りだったんですね。

 

 

(田中さん)

その時まだ八木にお店を構えていたPatisserie Clientが

アルバイトの募集をしていることを知って、応募したんです。

本場の文化を学ぶためにフランスに行きたいと思っていたので、

「学びながらお金を貯めて、フランスに行きたいです!」と素直な気持ちを伝えて。

今思えばこんな無茶苦茶な願いをよく受け止めてもらえたなと思います。笑

 

(合田)

そして渡仏されて現地の学校に通われたんですか?

 

(田中さん)

タイミングが良いことに現地に知り合いもいて、

その方のすすめでわたしにぴったりだという洋菓子学校に通いました。

そこでも色んな方と出会うことができて、とっても勉強になりましたね。

(合田)

思ったことを行動に移されるそのパワーがとても素敵です。

帰国後はPatisserie Clientさんに戻られたのですか?

 

 

 

(田中さん)

Clientで2年間パティシエとして働き、

その後独立して桜井市で焼き菓子とタルト専門の工房を構えました。

イベントの手土産として依頼をいただいたり、

それをきっかけにわたしのお菓子を知ってくださったメディアの方が取り上げてくださったり。

ありがたくも忙しくさせていただいたのですが、

一度だけPatisserie Clientのシェフが仕込みの手伝いをしてくれました。

とてもストイックな人なのでよほどのことがなければ助けてくれなかったと思います。

手を差し伸べるほど弱っていたのでしょう。笑

 

その後Clientのシェフと結婚し、マダム業に専念しました。

シェフが亡くなった今はパティシエとマダム両方を兼ねており、現役でお菓子を作っています。

 

 

 

 

(合田)

八木から五條に移転されたのはご出身の地だったからでしょうか?

 

(田中さん)

静かな場所でお店ができればと五條に移転しました。

実家が建築金物店を営んでおり、2店舗目をこの場所でと考えていたようです。

 

その後ろめたさがあってお店を建てたとき2階の小さなギャラリーに

“カンカイユリービザール 奇妙な金物屋”と名付けました。

 

今は年に数回、作家さんの個展を開いています。

 

 

(合田)

なるほど。

五條はたくさん季節のフルーツが採れますし、いいところですよね。

 

(田中さん)

そうですね。

フルーツ、小麦、ハーブ、卵等、できるだけ五條産のものを使うようにしています。

香りや風味がいいことはもちろん、安心してお召し上がりいただけますし、

できるだけシンプルなものを追求するようになりました。

アルザスやバスク地方のような郷土菓子が好きなんです。

 

今日のレモンタルト“ヴェロニカ”も五條の檸檬や小麦を使っていますよ。

 

 

 

(田中さん)

先日の東京イベントで好評いただいた柿パウンドは

柿農家のパティシエが何度も試行錯誤を重ねて作り上げたもの。

東京で人気だったことが農家さんの励みにもなったようです。

 

フランスの文化だけでなくイタリア、ベルギー、ドイツ…

ヨーロッパの伝統菓子や文化のようにずっと残り続けているような

素材を生かしたお菓子をお届けしていきたいです。

 

 

(田中さん)

イベントで言いますと昨年の9月に一週間

パリのポンヌフのすぐ近くのギャラリーで“旅する茶箱展”を開きました。

日本の文化である茶箱と、バターやショコラを使いながらお抹茶やお煎茶に合うお菓子を一年間追求。

桐の箱に入れたフールセックやドゥミセックは、よくありがちなラッピングや構成にならないよう

日本を離れるギリギリまで試行錯誤しました。

 

これからも素朴なものの中に

大人のかわいさを表現していけたらと思っています。

 

 

 

 

 

“みんなに知ってほしい、だけど自分だけのとっておきの場所にしておきたい”

みなさんにもそんな場所がありませんか?

流れる空気の心地よさに、そんなことを思いました。

 

五條の豊かな恵みと田中さんだからこそできるお菓子と空間づくり。

静かなエネルギーに満ちたPatisserie Clientで

ほっと一息つきたいと思う人が絶えない理由を垣間見た気がしました。

 

text by saki goda.