PEOPLE

時間が流れていることに、 ちゃんと目を留めて生きていく

人口約3,700人、三重県との県境にある山添村。

そこに会社員という働き方は変えずに、約1年前に移住した女性がいます。

 

 

 

 

“移住”って最近よく耳にするようになった言葉だけど、

なんだか思い切った決断が必要で、色々大きく変わりそう。

自然豊かな場所でも仕事ができるのは、

パソコンがあればどこでも、っていうお仕事だけじゃないのかな?

 

そんな疑問を持ちながら、

移住しようと思ったきっかけやどのような暮らしをしているのかを尋ねに、

日本の文化“寿司”を伝える企業「うめもり」で勤める梅守志歩さんに会いに行ってきました。

 

 

奈良県奈良市出身。

京都の中学・高校・大学に通い、卒業後は大阪にある会社に就職。

25歳の時に家業である「うめもり」の仕事に就き、

職人体験ができる寿司学校や和食ハラル弁当の立ち上げに携わる。

現在は、食を中心とした文化体験ができる農泊推進の立ち上げをおこなっている。

 

 

 

 

都会のど真ん中から自然の中へ

 

(合田)

大学卒業後すぐに家業に就いたのではなくて、

大阪の企業で勤めて、大阪に住んでいたんですよね?

 

(志歩さん)

中学生の頃から京都の学校に進学していたし、当時は奈良が好きじゃなかったんだよね。

このゆっくりしている空気感に、わたしはこんなところで働いている人間じゃない!と思ってて(笑)

だから大阪の堺筋本町や中津といったど真ん中に住んでいました。

 

でもその会社を辞めるとき、星野道夫さん(カメラマン)の本に出会って、

自然の中で生活がしたいなあと漠然と考えるようになったの。

いつも鞄に入れて持ち歩いているぐらい星野さんの言葉や世界観が好き。

 

 

(合田)

自然の中の暮らしが具体的になり、そして叶ったということですよね。

何がきっかけになったんですか?

 

(志歩さん)

2015年の5月に、東吉野村のシェアオフィス「OFFICE CAMP」に初めて行ったことかな。

移住して、そこを運営しているデザイナーの坂本さんや大門さんと喋っていたとき。

吉野川に落ちている流木をフリマで売ったら3,000円になった、っていうお話を聞いたのが衝撃的で…!(笑)

 

それまでわたしは会社に所属してお金をいただくというのが基本的な生き方と思っていたから、

お金の稼ぎ方っていろいろあるんだな、と。

企業に所属して何かをしなければいけないということはなくて、

自分の好きな環境で、好きなものを取り扱いながら生きていくことができるということを教えてもらったの。

 

実際に大門さんは一児のパパで、その自然豊かな環境の中で生活を体感されていたし。

そんな風にリアルに自然と暮らしている人たちに出会って、

自分もできるかもしれないと。

 

 

(合田)

なるほど!

実際に移住されている人との出会いが大きかったんですね。

でも坂本さんや大門さんはデザイナーで、また少しモデルが違うというか…。

 

(志歩さん)

そう、デザイナーはパソコンがあればお仕事ができるけど、

わたしはそれだけでは仕事ができない。

持ってる能力は対人コミュニケーション能力ぐらいだから(笑)

 

働き方を大きく変えず、人とか組織と関わって生きていく中で、

自分も同じような生活が実現できる場所…

それを探していて辿りついたのがここ山添村だった。

車で30分ぐらいで奈良市に通える場所だしね。

今はわたし含めて4人で住んでるよ。

 

あと、知り合いがいたことや

うめもりのお寿司に使っているわさびの葉っぱも山添村産ということもあって。

 

 

(合田)

実はこの取材の前にお家のまわりを一人でふらふら散歩していたんですが、

「志歩ちゃんのところに遊びに来たの?」ってご近所さんに声をかけてもらうぐらい、

もう山添村のみなさんとの生活に馴染んでますよね!

まだ一年も経っていないのに、すごく仲が良いというか、

今の時代を考えるとそれってすごいことだよなあと感じました。

 

(志歩さん)

それは山添村自体の良かったところかな。

おうち探しに協力してくれた観光協会の方が村の人に話を通してくれたのもあるし、

移住初日にこのエリア約10世帯全てまわってご挨拶したのもある。

それまでは顔の見えないことが多すぎると思ってたからね。

 

大阪に住んでいた時なんて、

お隣さんいるような気がする…ぐらいの感覚で暮らしてた。

でも山添村は「こんにちは~」って挨拶しているだけで、

帰るころにはトランクいっぱいの野菜の手土産ができていたり(笑)

giveの精神がすごい村なの。

 

あとさっきも話したけど奈良市まで約30分で出られるから

奈良市に働きに出るという人も多くて、

村だからという閉鎖的な感覚はなくてOPENな感じがある。

このあたりは特にそうだけど、

わたしたちみたいな移住者がきたとしても受け入れてくれる。

 

 

 

 

本の中の世界がリアルな世界に

 

(合田)

実際に村での暮らしを体感されている志歩さんの言葉だからリアルに伝わります。

働き方を大きく変えずに、ということで移住されましたが、不便なことは全くないんですか?

 

(志歩さん)

うん、全くない!

生活リズムは変わらないけれど、変わったことといえば…

目覚めが良くなったことかな(笑)

鳥の声がして、光が差し込むから起きよう!ってなる。

鳥の声で目覚める、っていう。

 

星野道夫さんの本もそうなんだけど、

自然のリズムに近いところで生きたいっていうのがあったから、

それが手に取るようにわかるようになったのがうれしい。

 

例えばここのお庭はすずらん、梅、水仙、紫陽花、つつじ…

タイミングによってどんどんお花が変わっていくの。

ここに住んでいるだけで四季の移ろいがわかる。

本で知っていたことと

自分の感覚が合ってくるというのがいい変化だなあって思う。

 

 

(合田)

それは会社の中だとなかなか見えないものですもんね。

電車で通勤して、帰るころには暗くなっていて…。

理想の暮らしの中で、お仕事との関係性は変わりましたか?

 

(志歩さん)

こんな暮らしがしたいというところからスタートして、

今は自分のやりたいことを仕事に寄せていっています。

 

ある刀師の最後のお弟子さんが、

わたしと同じく移住して近くに住んでいるんだけど、

その子が弟子をとらなければその刀の技術や知恵がなくなってしまうのね。

人が亡くなってしまったら技術や知恵がなくなってしまう。

日本刀だけじゃなくてそういったものがたくさんあって、

なくなっていくというのが山添村でいると肌感覚でわかるの。

 

郷土料理なんて最たるもので、

このあたりは緑色の大豆を使ったくるみ餅を作るんだけど、

家々によって作り方は違っていて、今の子供たちは作り方を知らない。

そしておばあちゃんたちもどんどん作らなくなっていく。

おいしいとか保存がきくとか、

せっかく何かしらの理由があってうまれたものが、

どんどんなくなっているというのが目の前でわかる現実。

本当にこれでいいのか…と思って。

 

自分の人生なんてたった80年ぐらいしかなくて、

何が守れるかってそんなに守れるものはたくさんないけど、

少なくとも自分が関わった中で、

これは価値があるとか残しておいたほうがいいと感じたものぐらいは、

経済がまわる中でつないでいけるようにしたい。

 

それで食を中心とした文化体験ができる農泊をしようと。

地域にお金が落ちることがしたいと思ったの。

村の人たちが価値じゃないと思っているものにスポットを当てたり、

わたしたちが持っている関係性の中でお客さまをよんできたり。

ビジネスの中で価値を残す取り組みをしていきたいなと。

一過性のイベントじゃなくて、

顔が見える関係性の中で根を張ってできること。

それがしたいと思うようになったのが、変わったことかな。

 

 

(合田)

まさに暮らしの中に全てがあるんですね。

そんな志歩さんが大切にしている感覚や大事にしていることってありますか?

 

(志歩さん)

大事にしていること…。

人間が偉いということは全くなくて、命の価値はアリでもお花でも変わらない。

だから人間とは違う生き物のリズムを感じていたい、ということかな。

 

人間の世界だけで生きるのではなくて、

このあたりにある草木だってエネルギーを持っている。

それを“そうだよな”って、ちゃんと毎日意識しながら生きていくこと。

忘れないようにしないと人はすぐ忘れてしまって、

目の前のタスクや時間に追われて一日が終わってしまう。

一日一日が人生で、それが積み重なって自分の命になっているのに、

それってもったいないことだなって思うから。

 

朝の景色がちょっとずつ変わっていっていることや時間が流れていること、

草花が成長していることに目を留めながら生きていく、

ということを忘れないで生きていきたいと思います。

 

 

 

 

「これ良いでしょ」と志歩さんが見せてくれた家具は、

このおうちの納屋にあったという“掘り出し物”たち。

 

新しいもの手に入れなくたって、

あたりを見まわしてみれば、十分なものが揃っている。

まさに自然の中で、自然な暮らし方を実践されている志歩さん。

 

やってみたいと思っていることを心の引き出しに留めていたら、

ある時ぱっと開ける瞬間がやってくる。

 

これならできるかもと感じたら、言葉にして、行動して…

案外理想は自分が思っているより近いところにあるのかもしれません。

 

 

 

text by saki goda.